SPECIAL スペシャル

キャスト×音響監督 座談会
大和田仁美(羽咲綾乃役)
島袋美由利(荒垣なぎさ役)
岡本信彦(立花健太郎)
若林和弘(音響監督)

―― オーディションの思い出と、役が決まったときの感想を聞かせてください。

大和田 原作を3巻ぐらいまでしか読まずに臨んだので、最初に若林さんから「そういうキャラクターじゃない」と言われたのを覚えています。

若林 原作序盤の、ゆるいキャラクターのほうを特訓してきていたんですよね。

大和田 はい(笑)。綾乃は人見知りで臆病な子だと思っていたのですが、そもそもスポーツマンなので負けず嫌いなところが根底にあって。最初のほうで声が小さいのは、人との距離をとっているからだと若林さんに話していただきました。そこから準備してきたものをバッと捨てて、「分からないなりに全力でやってみよう」と思いながらやった感じです。オーディションでは手ごたえを感じられませんでしたが、綾乃をもっと演じてみたいと思っていたので、役が決まったときは嬉しかったです。

島袋 当時は、スタジオでオーディションを受ける経験があまりない時期でしたので、ずっと頭が真っ白な状態でした。オーディションのときに使ったセリフの書かれた原稿用紙を最近見返したのですが、「落ち着け」「出し切れ!」といった自分へのメッセージがいっぱい書かれていて。ただ、最初に演じたあとに若林さんから「そんなに怒らなくてもいい」と言っていただいたのはよく覚えています。役が決まったとマネージャーさんから伝えられたときは、しばらくフリーズしてしまって、30分ぐらいしてようやく受かったらしいという自覚が湧いてきました。

岡本 僕はもともと中学の頃にバドミントンをやっていて、ちょうど去年の3月頃から声優のバドミントン仲間を集めてやり始めていたところだったんですよ。そんなときに、ちょうど「はねバド!」のオーディションの話がきたので、これは運命だと思い、どんな形ででも仕事として関わりたいと原作を読んだら、男キャラが非常に少なくて。どうしようかと思いましたが、とにかく立花という役に全力投球しようとオーディションに臨みました。そこで若さん(※若林氏の愛称)とお会いして、「バドミントンをやっているんだろう」と言っていただいたんですけど、それが逆にプレッシャーとなり、少しでもバドミントン用語を間違えたら全てが崩れるなと思いながら、そこだけは噛まないように気をつけました。

若林 岡本君とは、別の某・青っぽい作品で、いろいろ演じてもらっているんですよ。

岡本 はい。その時のイメージもあって、若さんとスタジオでお会いすると、普段なかなか味わえない緊張感が全身にズシッときます。

―― 若林さんは、キャスティングについて、どのような考えをもたれているのでしょうか。

若林 キャスティングでは、「監督がどうしたいか」を一番に考えます。「はねバド!」では、江崎(慎平)監督が、大和田さん、島袋さん、岡本君がいいという理由を確認して、それが納得できるものであれば、音響の現場でその理想に近づけられるように自分が仕事を依頼したスタッフと共に力を注ぐことが大事なのです。配役は基本的に全て監督の人選がもとになっています。これは過去の経験も踏まえて考えていることなのですが、監督が「この声がいい」と思うことは、キャラクターに思いを入れるきっかけとして、とても必要な要素だと思っています。そこで音響監督の我を無理に通さない方がいい。なので、よほどのことがない限り、監督の理想を叶える方向で考えています。

―― 大和田さんは、オフィシャルコメントで、綾乃は「どこか不安定なところが魅力」だとコメントされていました。

大和田 ほんとにつかみどころがなくて、「こう!」って決めつけられないキャラクターだと思っています。演じる際にも、事前に固めすぎず、現場で若林さんや江崎監督の意見をいただきながら、探り探りやらせていただいています。私自身も現場で感じたままやってみて、「あ、こんなのが出た!」と思う瞬間が好きで。出たものの良し悪しが自分では分からないときもありますが、全力で演じ、あとは若林さんたちにお任せしています。

―― 島袋さんが演じるなぎさは、序盤は出ずっぱりで、周りに感情をたたきつけるような役柄でした。

島袋 1話は特にイライラしているキャラクターでした。台本には「イライラ」と書いて、アフレコに行く前には嫌なことがあったときに書く日記のようなものを読み返して、いろいろ思い返してから臨みました。初めて台本に名前が載る現場でしたが、そこで感じるモヤモヤなどを振り払おうとはあまり思わず、なぎさと一緒にダークサイドに堕ちようぐらいの気持ちで挑みましたが、それでも全然足りなくて……。若林さんのディレクションを受けているうちに「この野郎!」っていうような言葉がどんどん増えていって、今までの人生で感じた嫌なことを全て吐き出すような収録でした。

―― なぎさの声は、かなりの低音ですよね。普段の声とはかなり違うようですが。

島袋 実家で機嫌が悪いときに親と喋っていると、ああいうトーンなんですよ(笑)。オーディションのとき、普通に喋ってもなぎさの感じにはならないなと思って、あえてトーンを下げてやってみたんですが、気がついたらどんどん低くなっていました。

若林 江崎監督が島袋さんを選んだ要因のひとつに、彼女が新しい人だというのがありました。役を演じていて、色々な要求に対して追い込まれていったとき、例えば大和田さんの場合ならば、これまで経験した中でのノウハウを使ってバッと出せるものがあると思いますが、島袋さんは他の手段をまだ知らないから、もう体当たりに一直線!となる(笑)。そこが不器用ななぎさにあっているというふうに監督は捉えているんです。だから、「はねバド!」は今のままでいいんです。

島袋 このまま真っ直ぐいって、自分で自分を縛り付ける感じで大丈夫なんでしょうか……。

若林 なぎさは、自分のやる気と真っ直ぐさで自分を縛っていて、頑なにそれを全部乗り越えようとしながら縛り付けたものと一緒に広がっていくようなキャラクターですから。そして、広がるきっかけとなるのは、良くも悪くも綾乃になる。綾乃も、後半に向けて大変なことになっていくんですけど、みんなキャラクターと一緒になって、もがいてあがいていってほしいなと思っています。スポーツも人生も一緒、あがいてなんぼです(笑)。

―― 岡本さんが演じる立花は、数少ない大人のキャラクターです。どのようにアプローチされたのでしょうか。

岡本 僕は、立花のような人を育てたり見守ったりする立場の役をあまりやったことがないんです。どちらかというと、フロントマンやプレイヤーの役をやってきていたので、実際に立花を演じてみると作品の見方が変わりました。スポットライトを、生徒達にどのように当てれば輝かせられるのか。そのことを、立花としてだけでなく、自分のお芝居の中で考えなければいけないという視点を持たせてもらった気持ちです。ちょっと油断すると、色気を出して自分がスポットライトを浴びにいってしまうこともあるんですけど、そういうときは若林さんに、とがめてもらって。

若林 男性は特に、演技で「やった感」を求めてしまいます。自分の中の疲労感や達成感で評価しがちなところがあるからです。その気持ちは凄く分かるんですけど、抑えるところで(演技を)抑えないと、出るべき部分が出てると感じなくなります。

岡本 若林さんからのご指摘は、本当に有難いなと思っています。立花は、プレイヤーである生徒たちをリラックスさせて、彼女たちに本領を発揮させるのですが、そのときに自分自身がリラックスしすぎていたり、格好つけすぎたりするのはやっぱり違うんですよね。なので、(演技の)技術的には「抑える」に近い感じになっていると思います。実際に自分の声が入った映像を見たら、すごく良く写っていて、特に2話の立花はめっちゃ格好良いんですよ。そのときに、「色気なんかいらないんだな」と実感しました。立花は、出来あがりが凄く楽しい役です。

若林 僕は、役者さんの予定が許すかぎり、放送をする前に完成した映像を見てもらうようにしているんです。なぜかというと、今は収録する時に映像が出来上がっていないことが業界で定着してしまっているので、演者は下手をすると完成形を見ないまま収録が終わり、放送を見て「えっ、そんな風になるなんて聞いてないよ」となることもあり得ます。そうした齟齬をなくしたいんです。「百聞は一見にしかず」という言葉の通り、自分がなぜ色々なことを現場で言っているのか、完成した映像を観てもらうと、みんなに解ってもらい易くなります。そうやって早く現場の精度をあげていきたいんですよ。「はねバド!」の現場では、岡本君に影の座長となってもらい、僕と一緒に若いみんなをまとめていくような役割を担ってもらっています。

岡本 若さんは、アフレコの前に、ちょっとしたトークといいますか、作品とは直接関係のない、最近あったことなんかを話してくださるんですよ。そうすることでみんなを集中させて緩急のある良い雰囲気にもなりますし、実は最初のトークが、収録する話数と微妙に関係していて、演技についての共通言語になったりもするんですよ。そうして現場の空気を作ってくださっています。

―― 岡本さんは、バドミントン経験者として本作の描写をどうご覧になりましたか。

岡本 「はねバド!」のバトミントン描写は、映像も音も凄いなと思いました。バドミントンの動きは、普通のスポーツとはちょっと違っていて、そうした特有の動きは取材をしないと絶対に描けないはずなんですよ。絵を描く方は本当に大変だったろうなと思いました。特に驚いたのが、PVでも使われている、なぎさが2話で立花と戦うところで、なぎさがスマッシュを打つ直前にバックステップをするところです。あの小刻みに揺れる感じは凄くリアルで、足は映っていないのに、まるで足が見えているかのような動きをしていて、ちゃんとステップしていることが分かります。空間が見えるというか、カメラワークと動きが凄まじくて、プレイヤーが生きている感じがでているなと。バドミントン経験者の方が観ると、きっと「おおっ」と思っていただけるんじゃないかと思います。

―― 大和田さんと島袋さんからは、序盤の見どころを聴かせてください。

大和田 どのシーンも好きなんですけど、綾乃の心情にスポットがあたる3話には個人的にも思い入れがあります。エレナとの会話で、お母さんについて抱えているものを吐露するところなど凄く気にいっています。あと2話で、毎回コンビニの前で(海老名)悠がフランクフルトを食べているところも印象的です。部活帰りのコンビニって、いろいろ思い起こすというか、「高校の部活をしているな」って感じもありますし、彼女たちが凄く生きている感じがします。

島袋 私は、2話で立花がなぎさと戦ったあとに、「バドミントン馬鹿だから、そのままでいい」「努力してきたのを知っているから」と言ってくれて、なぎさが吹っ切れるシーンが凄く好きです。観ていて、雲が一気に晴れるような感じがありました。あと、1話でひとりだけ居残り練習をしていたであろうなぎさが部室に入ってきたら、部室の気温が下がるというか、シーンとなるところも個人的に好きです。「なんだか、この気温の下がり方は知っている」と、過去に色々気まずかったことなんかが思い出されて「よし!」って思います(笑)。ちょっとしたシーンにもリアリティがあって、身につまされるようなところがあるので心に残ります。

―― 最後に、若林さんから一言お願いします。

若林 この作品では、青春群像劇を描こうとしています。今、大和田さんが言ったコンビニのシーンのような、地味だからと最近のドラマでは切り捨てられがちなところもきちんと見せようとしていて、そこは監督や脚本の方々の狙いでもあるんです。キラキラした美味しいところだけをやるのではなくて、「その時に彼女たちは何をしていたのか」を全部やろうとしている。だからこそ観ている人が、島袋さんのように昔のことや実際にあったことを思い出せるようなものになっているんじゃないかと思います。

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